ジャーナリスト Kei Nakajima

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特筆記事

2005年5月27日(金)
特筆記事
『延安の娘』
監督:
池谷薫
撮影:福居正治
編集:吉岡雅春(日本人監督による中国のドキュメンタリー映画)
2002年、シカゴ国際映画祭シルバーヒューゴ賞受賞
2002年、ペンシルバニア映画祭グランプリ受賞
★★★★★
特筆記事

内容:「中国革命の聖地」延安の農村に住む実在の娘、海霞(ハイシア)を主人公にした、日本人映画監督によるドキュメンタリー映画。海霞の両親は文革時代、毛沢東の指令によって北京から下放された紅衛兵のひとりだったが、文革時代の恋愛はご法度なため、娘を隠れて農民に預けて北京に戻ってしまった。海霞は18歳のときにその事実を知り、両親探しを始める。その手伝いをするのが、同じく紅衛兵出身でそのまま延安に残った黄玉嶺(ホワン・ユーリン)でこの映画のもうひとりの主人公。文革という時代の犠牲になった人々の真実を明らかにする物語。

感想:ドキュメンタリー映画は「つまらないもの」が多いが、このところ見ているドキュメンタリーはどれもおもしろく素晴らしいものばかり。とくにこの作品は文化大革命という30年前の出来事でありながら、現在も生きている当時の中学生とその子どもを描いた作品として、ズシンと胸に迫るものがあった。
「本当にいい映画。記録に残しておくべき映画である」と感じた。文化大革命の犠牲になった庶民を描いた映画は「芙蓉鎮」などいくつもあるが、紅衛兵のその後、について、このような形で描いた作品はおそらくないだろう。これは当時、北京の中学校から延安の農村に下放された中学生たちの記録である。下放青年たちの恋愛は革命を破壊する犯罪とみなされるため、女は隠れて娘を生み、その村に置いて北京へ戻る。男は娘が産まれたことも知らずに北京へ帰るが、30年を経て、実は娘が生まれていたことを知る。しかし、その男性は文革末期の75年に北京に戻されたあと、ボイラー製造工場に配属させられ、低賃金で働いていた。国有企業改革のあおりを受けて工場が倒産寸前なため、現在の給料は北京資金の平均の3分の1しかないという状態だ。娘の存在を知っても「何もしてやれない」と涙を流す姿は痛ましい。また、もうひとりの主人公、黄玉嶺も下放先で恋愛し、子どもができたが、相手の女性は中絶させられたという経験を持っているため、海霞の親探しに奔走する。彼は文革終了後の76年に北京に帰ることを許されるが、自分の面子を守るために延安に残り、今は小さな食堂を営んでいる。最終的に海霞はみんなの支援や説得で実の父親と北京で再会することができるのだが、この映画を見て思うことは、国家の理想に翻弄されて、また国家に裏切られた者は、いかにして自尊心を回復することができるのだろうか?ということである。また、人生はやり直すことはできない。もし苦しい環境を与えられたとしたら、どうやってそこで自分の人生をまっとうし、自分らしく生き抜くのか?ということである。下放された中学生は現在50代前半。本来ならば働き盛りの熟年のはずが、高度経済成長真っ只中の中国では、社会を牽引するどころか、生活もやっとで世間から置き去りにされている。しかし、今の中国が輝けば輝くほど、彼らのような名もなき人々が経た道程と存在を無視してはならないと思う。「延安の娘」海霞の日に焼けて苦労した笑顔も上海などのおしゃれな若者とはまったく違うものを感じ、印象的だが、50代を迎えた彼らの内なる叫び、それでも耐えてひとりの人間として生きていく姿に胸を打たれる。

なお、この映画を撮った池谷監督は現在、「蟻の兵隊」という映画を製作中だという。

第二次世界大戦後も中国に残留し、国民党の部隊として中国の内戦を戦った「日本軍西安残留事件」を扱った力作だという。日本兵は捕虜、自決、獄中死という末路をたどったが、戦後、日本政府はこの事件を隠蔽するため、兵士たちに責任をなすりつけ、切り捨ててきたという。池谷監督渾身の作品、楽しみだ。

「蟻の兵隊」製作委員会  http://www.arinoheitai.com


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