ジャーナリスト Kei Nakajima

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2010年1月5日(火)

『牛の鈴音』
ドキュメンタリー映画
イ・チュンニョル監督
★★★★



内容:韓国で観客動員300万人という大ヒットを飛ばした異例のドキュメンタリー映画。慶尚北道・奉化という農村で、30年間も1頭の牛を大切にし、その牛とともに生きた79歳と76歳の老夫婦の農作業など日常生活を描いた。これが初監督作品となるイ・チュンニョル韓国が3年の歳月をかけて本作品を完成させた。プロデューサーは北海道の朝鮮学校を描いた「ウリハッキョ」で知られるコー・ヨンジェ。

感想:日本で公開される韓国のドキュメンタリー映画と聞いて最初はピンとこなかったが、このところ韓国ドラマ三昧だったこともあり、たまにはドキュメンタリーでもと思って観に行った。舞台となった慶尚北道といえば、数年前に安東に行ったことがあり韓国の農村の風景が目に浮かぶ。

冒頭、清涼寺にお参りする老夫婦。30年も大事にしていた牛がなくなったあとのシーンからストーリーが始まる。老夫婦の仕事は農業だ。こんな片田舎でも農作業に機械を使うのは当たり前の時代だというのに、おじいさんは頑として老いた牛を手放そうとしない。牛に荷車を引かせたり、田植えにも牛を使う。その姿を見ていて、自分の子どもの頃を思い出した。私がまだ子どもだった頃、田舎の山梨でも牛を使っていた。その頃すでに機械化が始まっていたが、まだ数頭の牛を見かけたことがある。大きな動物なのに、たんぼにいる牛を見ても、ちっとも怖いとは思わなかった。さすがに今の日本で牛を使って田植えをしているところはもうないだろうが、韓国でも相当珍しい光景だろう。

ドキュメンタリー映画につきもののナレーションはなし。ドキュメンタリーといわれなければわからないほど老夫婦の会話が自然で、映像のつなぎ目もスムーズ。「ドキュメンタリーでございます」といった硬さや気負いが全然なくて、すんなりと胸に飛び込んでくるのだ。

何といってもおもしろいのは、おじいさんとおばあさんとの掛け合いだ。おばあさんが「なんで農薬を使わないのよ」というと、おじいさんが「牛が草を食べるからだめだ」。「牛を売ろうよ」というと「死ぬまで面倒みる」。一見強そうでかかあ天下のおばあさんだけど、おじいさんは譲らない。そんなおじいさんに文句をいいながらもついていくおばあさん。でも、ちょっと心にひっかかったのは、1年を通して秋夕(チュソク)のときだけしか子どもたちが田舎に帰ってこなかったこと。私が安東を訪れたときも村は老人だらけだったが、ここ奉化でも若い人はいないのか。牛がいたおかげで農業ができ、9人の子どもを成人させたというのに…。過疎化はますます深刻になっているんだなと感じた。牛の死期が近づいてきて、牛の目から涙がこぼれるとき、観客からすすり泣く声が聞こえた。

不況、競争社会、格差に悩まされる韓国で、失われゆくもの、消えゆくものに対する哀切が老夫婦の生き様を通して描かれた作品。こんな映画がヒットするなんて、やっぱり韓国はすごい。
(2010年1月11日)


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