ジャーナリスト Kei Nakajima

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2010年6月15日(火)

『クロッシング』
韓国映画
キム・テギュン監督、チャ・インピョ主演
★★★★★



内容:中国国境に近い北朝鮮の村で妻子と貧しくとも幸せに暮らす元サッカー選手のヨンスだったが、ある日、妊娠中の妻が結核を患ってしまう。北朝鮮では薬が手に入らないためヨンスは仕方なく中国に出稼ぎに行くが、不法な労働現場で警察に追われる身に。その間に妻は亡くなる。一人残された11歳の息子ジュニは父を探しに家を出る。だまされたヨンスは韓国に連れていかれるが、そこでジュニを呼び寄せるように奔走するが、脱北しようとしたジュニはついに力尽きてしまう。

感想:ここ2、3年の間に見た中で最高の映画。本当に感動し、見終わったあとしばらく放心状態だった。とにかく、ひとりでも多くの日本人に見てほしい、知ってほしい映画だ。北朝鮮からの脱北者のニュースは折に触れてみていたが、まるでそのドキュメンタリーを見ているかのようだった。

プログラムによると、キム・テギュン監督は3年間かけて100人以上の脱北者にインタビューし、北朝鮮の家の中、服装、強制収容所の様子など詳細を聞きだし、それを映画に活かした。そして実際の脱北ルートを撮影するため、韓国、中国、モンゴルを行き来しながら8000キロを歩いたという。なにげないことでも詳細を描くことでぐっとリアリティが生まれ、見ているうちに、本当にこの家族がいたような気がしてくる。実際、ヨンス一家とほとんど同じ家族が何十、何百もいたのだろう。
とくに強烈に目に焼きついているのが、両親をなくした5、6歳のコッチェビ(子どもの乞食)が市場で食料を漁るシーンだ。どこかで拾ったビニール袋を持って歩き、食堂で食べている人の残飯をビニール袋に分けてもらう。

また、脱北しようとして川で警官に見つかり連れ戻されたジュニと、幼友達の女の子ミソンが強制収容所に入れられて労働しているシーンはいたたまれない。不潔な環境で疲労が重なるミソンの背中が蝕まれていく中で、「ねずみの皮が傷に効く」と聞いたジュニがねずみを捕まえてミソンの背中に貼りつけてあげる。そして、その皮を一度はがして元に戻すシーンだ。目を覆いたくなったが、こんなにひどいことが日常的に繰り返されているのだと改めて実感した。

自分の意思ではなく中国で領事館の壁を越えて韓国に来てしまったヨンスも、別の意味で救いようのない、かなしい人生を歩む。肉体労働で稼いだお金は妻の薬と息子のサッカーボールに消えてしまうが、それでも不安は消えない。妻がもうこの世にいないとも知らずに狂ったように薬を買い続けるヨンスの一途な姿は感動的だった。脱北者の映像はこれまで散々見てきたと思っていたが、この映画はジャーナリズムで知る真実以上に胸に迫るものがある。北朝鮮が抱える問題は日本の歩んできた歴史と無関係ではない。拉致問題だけにとらわれて、がんじがらめになるのではなく、北のありのままの現実を知り、歴史を知ろうとする、もう少し広い視野を私たち日本人はもっと持つべきだと思う。
(2010年7月2日)


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