ジャーナリスト Kei Nakajima

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その14
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コウモリをめぐる一考察 〜中国、韓国、そして日本〜

私の中国との出合いは18歳のときから。以来、長年中国について勉強し、中国各地に出かけながら、細々でもずっと取材も続けてきた。そして、今では香港や台湾も含め、中国は自分にとって最も身近な存在になり、中国と日本との共通性についても「それはおもしろい!」とか「へぇ〜」と思うようなことはほとんどなくなってしまった。(もちろん、知り尽くした、というわけではないが)しかし、最近、韓国に興味を持ち始め、韓国語やポジャギ(アジア便り その10を参照)を習っていくうちに「えーっそうなの?」と驚いて感動したり、新鮮に感じることが多くなった。韓国について知ることにより、なぜか中国の知識も増えた、のである。やはり同じアジアで陸続きの中国と韓国には文化的に通じるものが数多くある、ということなのだろうか。私の頭の中に蓄積してきたさまざまな知識の点が、ほかの知識と線で結ばれ、ピーンときたのかもしれない。さらに、これまでほとんど関心のなかった日本文化についても「おもしろい」と興味を持つことが増えた。私は学者ではないのでここで比較文化を論じることはできないが、先日出合った「ちょっとおもしろいこと」について紹介したい。

私が趣味で習っているポジャギにはいろいろな縫い方があるが、そのひとつに「パクチ」という飾りがある。「パクチ」とは韓国語で、コウモリのこと。ポジャギでパクチをつけるのは、2枚以上の布がずれないようにする実用的な意味があるのだが、そのほかに、見た目のかわいらしさ(布で作ったパクチは蝶のような羽を広げた形に見える)と、おめでたいという意味もあるという。ポジャギの先生によると、パクチは漢字で書くと「蝙蝠」で、「蝠」の字が「福」(韓国語でポク)と読めることや、コウモリは多産な動物であることから、古来より福を招く縁起のよい動物とされていたという。ポジャギも漢字で書くと「褓子器」となるが、この「褓」(包むという意味)も「福」と同じ音で、縁起がよい。

実は、中国でもコウモリは縁起のよいものとされているという。中国に長年関わりながら、恥ずかしながら、私はそのことを知らなかった。調べてみると同じように「蝙蝠」の「蝠」が福に転じるからだそうで、茶器やお正月の飾り、置物、皇帝の衣装などにも描かれている。とくに多いのは卍模様(卍は万に通じることからよい意味)とコウモリの組み合わせや、桃(おめでたい意味)とコウモリを組み合わせた柄などだ。これまで何度も美術館などで目にしてきたのに、一見するとコウモリだとわかりにくいことや、自分の関心が中国文化に対してほとんどなかったため、気がつかなかった。このように韓国と中国はコウモリという動物ひとつとって見ても共通した文化がある。

 ところで、日本でのコウモリのイメージはどうだろう?不気味、汚い、怖い、はたまた縁起が悪そう、といった非常に悪いイメージではないだろうか。私自身、そう思ってきたし、周囲に聞いても同じものだった。アメリカ映画「バットマン」のイメージに重なるからかもしれない。だが、ポジャギの先生によると「日本にきてから調べてみたところ、江戸ガラスの文様にコウモリが使われていたのを見たことがある。着物の柄にもなっていた」とか。このへんのところはまだ調べていないのでうかつなことは言えないが、もしかすると日本でも昔、コウモリは縁起のよい動物としてさまざまなデザインに使用されていたのかもしれない。縁起がよいかどうかは別として、少なくともデザインの対象になっていたのは事実だ。中国や韓国では今でもコウモリは縁起のよい動物と思われているのに、日本ではなぜそのような認識が消えて、不気味なイメージだけが残ってしまったのか。とても不思議な気がして興味をそそられる。しかし、日本でもコウモリをデザインとして使用しているところがあるという。長崎の有名なカステラ店、福砂屋のマークだ(=写真参照)。福砂屋のホームページによると、「中国ではコウモリは桃と並んで大変おもでたいもの。日本における鶴亀のごとく尊重されている。福砂屋は12代目清太郎のとき、これを商標とした。(現在は16代目)外来文化との交流が自然な形で商標と結びついた長崎ならでは」と書かれている。また、パンフレットには「中国では五福は「長寿、富、貴(高位)、康寧(健康)、子孫衆多」の象徴とされ、幸福の基本と考えられている。蝙蝠を商標とするにあたっては、天和2年(1682年)の飢饉の際に米を寄進した唐寺・崇福寺の勧めがあったといわれている」と書いてある。福砂屋は中国でおめでたい動物だから商標に使ったということだが、昔の日本人のコウモリに対するイメージは本当はどうだったのか、機会があれば調べてみたいと思っている。ちなみにコウモリを社章に使った会社もある。日本石油(現・新日本石油)だ。資料によると日本石油が設立されるとき、晩餐会の会場に1匹のコウモリが舞い込み、コウモリは蝙蝠と書いて、やはり福で縁起がよいということから、社章に使用した、と書かれている。

私の「コウモリ論」はまだこんな程度のものだが、こういうことを考えていくのはとてもおもしろく、中国、韓国、日本ではほかの動物や事象でも同じようなことがいえるのでは?と感じている。たとえば豚は中国では丸々と太っていて縁起のよい愛嬌のある動物と認識されているが、日本ではやはり汚いイメージのほうが強い。最近では豚のかわいいキャラクターもあるが、少なくとも日本人が豚を見て「縁起がよい」とは思わないだろう。このあたりの中国、韓国、日本の認識の違いをもっと掘り下げて、今後、勉強してみたいと思っている。 

福砂屋ホームページ http://www.castella.co.jp
(文・写真/中島 恵)


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