ジャーナリスト Kei Nakajima

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11月20日号「読売ウィークリー」(読売新聞社発行)
P88〜89 「チャングムの誓い」にビジネスマンがはまる理由

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 NHKが放送している韓国ドラマ「宮廷女官チャングムの誓い」にはビジネスマンが夢中だという。画面いっぱいに並ぶ宮廷料理を作ってみたいという女性ファンは韓国料理教室に押しかけている。「韓流」はもう単なるブームとはいえないほどの広がりを見せているようだ。

ドラマ「宮廷女官チャングムの誓い」は16世紀初頭、朝鮮王朝で初めて王様の主治医に上りつめる女性(チャングム=長今)を主人公にした大河ドラマだ。天性の好奇心と才能を生かして宮廷で料理人として頭角を現していくが、数々の苦難と陰謀に巻き込まれる。しかし、困難を乗り越えて医学を学び、最後は医女として王様から最高の称号「テジャングム(大長今)を与えられるまでに出世するという史実とフィクションを織り交ぜた物語だ。

NHK広報部によると通常のドラマと違い、幅広い年齢層から韓国の食、健康、習慣、歴史、文化など多方面での問い合わせが多いのが特徴だという。NHKが9月に発表した報道資料によると反響は電話が約7000件、メールは約3000件。とくに50代、60代の中高年男性からの反響が多い。男性は「チャングム」のドラマをどのような目で見ているのか。
山形県米沢市で税理士事務所を開く星野敬一さん(63)は「会社経営のヒントがあちこちに散りばめられていておもしろい」と感じている。
第18話では明国の使者に豪華な料理を出すように長官から指示されたチャングムが、あえて粗末な薬膳料理を出すシーンがあるが、星野さんは
「チャングムは料理人として身体の害になる料理は出せないと主張し、長旅で疲れて持病が出た使者の身体を気遣った料理を出します。これは上司への媚びや料理の体裁ではなく、相手(顧客)に何が必要かを考えて行動する本当の意味での『顧客満足』につながる話ですよね」と舌を巻く。

チャングムを慕うミン・ジョンホ(王様の家臣)が王様に発した言葉にも、重要なヒントがあるという。

「彼は有能な人物を発掘して、その人が王様の前でその力を発揮できる場を提供する機会を作ることが自分のよいところだ、と王様に訴えます。こういう人材こそ、今、企業に求められているのではないでしょうか」

ノンフィクション作家で長野県の企業、アールエフ社外取締役を務める篠田達さん(63)も「チャングム」からビジネス上の教訓を汲み取っている。
「スラッカン(宮廷内の厨房)はいわば企業組織です。ハイハイといっていれば済むところでチャングムは構造改革に挑む。チェ一族のような抵抗勢力に対して規制緩和が必要とされるのは今の日本の企業社会と同じ。それに、チャングムの才能を見抜き、その能力を何とか伸ばそうと支援するハン尚宮(女官)の上司としての考え方や姿勢にも心を打たれます。王様やハン尚宮の言動は経営者にとって役立つことが多い」

とくに篠田さんが印象に残っているのは第4話でハン尚宮がチャングムに水を持って来させるシーンだ。

「何度持ってきてもハン尚宮がOKせずにチャングムは泣き出しますが、最後にチャングムはやり直しさせられる理由に気がつきます。どんな水がいいのか、ただ言われた通り水を運ぶのではなく、自分で考えて行動する力や想像力を養うことを教えています。それにドラマの中には毎回必ず1つは感動するセリフがある。セリフも注意して聞いていると、ビジネスマンの参考になりますよ」

 ハン尚宮がいった『お前には味を描く能力がある』など詩的で気の利いたセリフに、韓国人の言葉に対する感性を感じ、新鮮な感動を覚える視聴者が多い。

 NHK担当プロデューサーの小川純子氏は、
「男性がはまっているのがこれまでの韓国ドラマと最も違う点です。経営者層ももちろんですが、30代、40代の働き盛り世代のビジネスマンにも参考になる。その世代になると真面目に仕事をしているだけでは企業で報われないこともわかってきますが、チャングムは才能だけでなく、コツコツと努力して上に上がっていきます。要領よくゴマするのではなく、影で大変な努力をし、かつ自分の意思もはっきりとしている。組織の中で自分をどう貫き通すか、それがドラマのテーマだと思います」
  脚本を執筆したのは38歳の女性脚本家、キム・ヨンヒョン氏。ドラマの前半はチャングムとハン尚宮という女性2人の子弟関係が主軸となるが、キム氏はこの2人の関係に自分の働く女性としての思いを込めたという。韓国ではキャリアウーマンのパイオニア世代。「仕事をしていく上で頼りになる女性の先輩が欲しかった」という自身の経験から考えられた。
  ドラマではチャングムが努力して上りつめるという仕事のキャリアだけでなく、女官たちのセリフを通して、幸せな家庭を築きたいというジレンマに悩んでいることも描いている。
  一方、朝鮮王朝という時代背景ということもあって、宮廷料理や衣装、調度品などへの興味から派生して、女性の間で韓国文化そのものへの関心が高まっている。朝鮮料理家のジョン・キョンファ氏は「チャングム」日本語版の料理監修を手掛けたことで知られ、「チャングム・レシピ」(NHK出版)でも監修・料理制作を担当している。
  今春から「ジョン・キョンファスタジオ」で一般向けに宮中料理コースを開設したところ、あっという間に定員に達したという。「チャングム」にはまって問い合わせしてくる人もいる。コースには宮廷料理の講義と調理のデモンストレーション、試食がある。

ジョン氏は、
「日本ではキムチ、焼き肉といった固定したイメージがありましたが、そこから脱して多彩で野菜が多い健康的な料理であるということを知ってもらえるようになりました。最近は料理だけでなく朝鮮半島の文化にも興味を持つ人が増えてきたのがうれしいですね。料理を通して文化も見えてくると思います。うちには本格コースなど、いくつかのコースがありますが、女性ばかりでなく、男性や男女カップルで楽しみにやってくる受講者もいるんですよ」と話す。

3年前から「ジョン・キョンファスタジオ」で料理を習っている土佐幸さん(38)は
「韓国料理が好きで始めました。キョンファ先生のお話を聞くうちに、だんだんと映画や書道、陶芸、衣装など文化にも興味を持つようになりました。チャングムも見ていますが、料理に関するシーンや感動したシーンはビデオに撮って、繰り返して見ています」

 韓国の伝統的な手芸、ポジャギを指導するチェ・ヤンスク氏主催の「からむし工房」でも生徒が昨年より3割増しで増えている。ポジャギの展覧会には男性ファンも訪れるという。前出の小川さんは、こう言う。

 「日本と似ているけどちょっと違う、というのがポイント。たとえば味噌の使い方や味ひとつとっても、日本と韓国ではちょっと違うんだね、ということから家族の会話や知的好奇心が広がっていく。さまざまな切り口ができるという点で、チャングムは生涯学習の材料にもなっていると思いますね」

「冬のソナタ」の純愛からスタートした韓流ブームは「チャングム」によって韓国文化、朝鮮半島文化への関心を幅広い年齢層に広げている。この流れはときにぎくしゃくする「日韓関係」にもいい影響を与えるに違いない。

(文:ジャーナリスト 中島恵)


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