ジャーナリスト Kei Nakajima

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2005年2月12日号「週刊ダイヤモンド」
転→展→天職スペシャル
決断したミドル 生きがい探しの転職
P108〜119 

コンピュータ商社→花卉栽培農家
渡辺良樹さん(52歳)
サラリーマン時代の年収を開業から6年で上回る

特筆記事

 真冬の朝日がビニールハウスを照らし出す朝7時過ぎ。花農家、渡辺良樹さんの一日が始まる。春先の出荷に向けたこの時期、妻と二人で植え付けや挿し木に余念がない。

安定した職を捨てたのは先行きに不安を感じたからだ。出世は望み薄で、年金だってもらえるかどうか。早期退職制度の対象となる45歳をメドに辞めようと、農水省が支援する就農学校に通い始めた。

三四〇〇坪の土地を一から開拓する花農家になって六年。妻は独立後も反対してきたが、最近では夫の熱意にほだされ、協力する姿勢に変わった。「オヤジと同じ生き方をしたい」と言った中学生の息子も、大学の農学部三年生に進級した。

尊敬する指導者、萩原幸一さんに養土づくりを学び、二年連続して日本ポインセチア協会の優秀賞を受賞した。

「人のやらないこと、新しいことが大好きな性分」が幸いした。うまくいけば高い値がつくが、リスクが大きく他の農家がやらない装飾用のポインセチアにあえてチャレンジことが、知らぬ間に高品質の花づくりをする腕を磨いた。

昨年は知人に北海道の花農家を紹介され、初めてプリムラの苗を一万鉢購入した。埼玉と北海道ではタネ蒔きの時期が二ヶ月違う。成長した苗を購入することで、タネ蒔きの手間を避けられ、ポインセチアの出荷前にプリムラを出荷できた。

今年から栽培品目が増え、ローテーションが組めそうだ。予定通りいけば、売上高は四〇〇〇万円台が見込める。年収も独立六年目で、ついにサラリーマン時代を上回った。

「花卉市場は差別化と淘汰の時代。花農家が作りたい花を勝手に作るのではなく、顧客の欲しい花を見極め、市場や仲買人といっしょに企画商品にしていくことが大切です」

とはいえ、すべてが順風満帆なわけではない。昨夏、土地を借りていた地主から「事情があって四四〇〇万円で買ってほしい」と突然、掛け合われたのだ。途方に暮れたが、引越しはできない。農協から借金して二二〇〇万円で購入した。

「運転資金がなくなったのは苦しかったが、ここが全部自分の土地だと思えば、身の入れ方も違ってくる。逆に将来を考えられるようになりました」

息子は大学卒業後、海外の農家に留学するつもりだったが、「オレの代になったら『グッドウッド・フラワー』をでっかくする。そのために、まず父さんみたいにサラリーマンになって英語や経営を勉強するよ」と話しているという。

渡辺さん自身は、ひとりの生産者に徹し、死ぬまでこの大地に花を咲かせていきたい、と考えている。

文・中島恵


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