ジャーナリスト Kei Nakajima

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その22
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上海万博狂想曲、そしてその影で行われた「善意の強制」

上海万博開幕まで10日を切った4月末、仕事で上海を訪れました。花冷えのどんよりとした季節でしたが、偶然にも万博の入場リハーサル初日にぶつかったことから会場を見てくることができました。ニュースでは、早朝から万博会場に向かう方向の地下鉄が大混乱しているとのことから、少し時間をずらしていざ会場へ!読みが当たって私たちが到着したときには混乱はありませんでした。とはいえ、入場まで約1時間待たされました。周囲の人々は地元の人が多いらしく、身なりもきちんとしていて、後ろから押したり、横入りする人はいませんでした。でも家族全員でみかんの皮をむいて食べたりはしていたかな。そのぐらいはまぁ、日本の田舎でもありそうな光景ですね。あの2、3時間待ちだったら、ピクニックシートを広げてしっかりお弁当を食べる人もいたかもしれません。

会場に入ると中国人が目指すのはやはり中国館。ゲートを入って真正面にどーんと、あの赤くて巨大な中国館がそびえたっていました。それを尻目に私たちは日本館へと進みました。途中、右手には北朝鮮館。左手には牛丼でおなじみの「吉野家」が見えました。吉野家はたいそうな賑わいでした。日本館はテレビなどでもおなじみの薄紫色の奇妙な建物。ボツボツとつのが生えたみたいで他のパビリオンと比べると明らかに異様です。夜ライトアップすればきれいなのかもしれませんがね…。すぐお隣はベトナム館、こちらは竹を周囲に配した茶色のシックな建物。身の丈というか、小ぶりながらも落ち着いた佇まいで好感が持てます。近くには韓国館もありました。写真を撮りそこなったのが残念でしたが、ハングル文字をデザイン化してアーティスティックにしたおしゃれな概観。さすがアジアでは最も美的センスの高い韓国です。(決してひいき目ではありません。どう見ても日本はやぼったすぎます。オリンピックの開会式で着る制服と同じですね。大金使っているのに、どうしてこんなにセンス悪いんでしょうか!?)。その後、日本産業館で「高原の風」に当たり、「J感覚」(日本を表現する感覚だそうな)なる変な映像を見させられて、全員頭の中が「???」になって帰ってきました。

衝撃的だったのはその晩、なにげなくつけたテレビ番組の映像でした。中国中央テレビで中国共産党宣伝部が主催するチャリティー番組が放送されていたのです。3時間の番組だったそうですが、途中から見ました。著名人が次々と壇上に上がって金額を書いたボードを掲げていました。それが4月14日に発生した青海省大地震の募金だということはすぐにわかりました。それにしても、そのボードに書かれた金額がすごい。最高は1億1000万元(約15億円)。ほかにも5000万元とか1000万元とか、善意の募金としては大きすぎる額が提示されていたのです。四川大地震のときにもこのようなチャリティー番組があり、有名人はもちろん、大企業、中小企業、個人にいたるまで募金集めがさかんに行われたそうです。前回の募金額が少なかったと非難の対象となったチャン・ツイィーは、今回は番組で追悼の詩を朗読するなどチャリティーに熱心な姿をしっかりとアピールしていました。「もうけているヤツはたっぷり出してくれよ」という市民の圧力は相当なものでしょう。ここで判断を間違うと女優生命にかかわります。もちろん、企業とて同じこと。以前、カルフールも募金問題でみそをつけたことがありましたっけ。日本企業も例外ではありません。いくつかの企業では募金額をプレスリリースで表明していましたから、気づいた人もいたでしょう。三菱商事1500万円、東芝1400万円など、大手企業は即座に寄付を表明していました。

広東省にある小さな日系工場でさえ募金を余儀なくされたそうです。日系工場を運営するある日本人幹部によると、「四川大地震のときには四川省出身のワーカーが多かったこともあって、なけなしのお小遣いの中から個人的に募金する人もいたが、あのときのお金がどこに行き、どのように使われたのかまったくわからないと不満をもらしていた。今回もせっかく集めたお金がちゃんと被災者の手に届くのかどうかみんな疑問を持っている。今回、個人の献金は少ないようですよ」と打ち明けてくれました。私が見たチャリティー番組だけでも集まった金額は300億円に上りますから、無視できない金額です。番組の翌日は「全国哀悼の日」で町では半旗が掲げられ、テレビの娯楽番組なども中止になるなど、まさに哀悼ムード一色でしたが、その舌の根も乾かぬうちに、上海万博は華々しく開幕しました。私はあいにく韓国に出かけていて、開幕式の様子はちらっとしか見られませんでしたが、大地震の悲劇と万博の栄光は、まさに中国の光と影の両極端を見たような気がしています。

蛇足ですが、上海滞在中、中国のテレビ番組では日本のトヨタのリコール事件を討論して「中国の自動車会社がトヨタの轍を踏まないためにはどうしたらよいか」などという非常におもしろい番組を放送していたのが印象的でした。上海万博の会期中、もう一度、日本館に行ってみたいなどとは決して思いませんが、中国のテレビ番組も韓国同様、だんだんとおもしろくなってきました。また時間があったら中国に行って、のんびりとテレビ番組を見て、その番組が企画される社会的背景を探ってみたいなと思っています。

(2010年5月10日、中島 恵)


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