その25
日本人を惹きつける韓国ドラマ
日本で最初に注目された韓国歴史ドラマといえば「宮廷女官チャングムの誓い」(03年、韓国MBC)だろう。日本では04年にNHKで放送が開始され、大きな反響を呼んだ。その後、高句麗〜朝鮮王朝時代まで幅広い歴史ドラマが放送された。代表的なものとして「ファン・ジニ」、「イ・サン」、「トンイ」などが挙げられる。これらはいずれも朝鮮王朝時代の実在の人物の生涯を描いたものだ。なぜ日本人がこの時代のドラマに惹きつけられるのだろう。その理由はいくつか考えられる。
ひとつは、この時代にはそれまでにない数々の文化が花開いたという点だ。世界でも類を見ない518年という長期政権だったため、高句麗や三国、高麗時代に比べて周辺国との戦いは少なく、文化や学問が勃興した。また、世界最初の雨量計の実用化、活版印刷などの発明も生まれ、それらにまつわる逸話がたくさん残されている。
明(現在の中国)との関係に苦しみながらも、独自のハングル文字を作り出した過程は、ドラマ「大王世宗」でくわしく説明されている。成均館(最高教育機関)もそのひとつだが、宮廷の中で、料理や絵画、伝統音楽のレベルが向上した。ドラマを通して、美しい衣装や芸術も堪能することができる。日本にはない「王朝」の存在は、ちょうど外国人が江戸時代の「大奥」を見るようなおもしろさがある。
もうひとつは、登場人物のキャラクターの魅力だ。トンイは宮廷の下女から第19代国王粛宗の側室となった女性。同じく粛宗の側室で、韓国三大悪女のひとりといわれたチャン・ヒビンと対立した。トンイの生んだ男子は異母兄、景宗の後を継いで第21代国王、英祖となった。英祖は52年間の長きにわたる在位中に、国民の税負担を減らし、「朝鮮のルネッサンス」とも呼ばれる黄金時代を築いた。しかし、生母の身分が卑しかったことから、常に王を貶めようとする派閥に苦しめられた。
イ・サンは、英祖の孫で、第22代国王、正祖となった人物。父が横死したため、国王の座は孫の正祖に引き継がれた。ドラマ「イ・サン」の中でも正祖の側室選びのとき、正祖の母が「前王は生母が卑しい水汲み女だったせいで、生涯ご苦労されたではないか」といって正祖を叱るシーンがある。
英祖と正祖の2代が統治した時代(1724〜1800年)は、日本ではちょうど江戸中期から後期の享保の改革や寛政の改革などが行われた時代に当たる。朝鮮王朝には歴代27人の国王がいたが、国王の座は安泰ではなく、常に王を脅かす存在がいた。そのため、王妃は権力のある良家から選ばなければならず、権力闘争が止むことはなかった。権力や派閥という面だけで見れば、現代の企業の出世争いを彷彿とさせる部分もあり、日本人にも理解しやすい。そんな世俗的なシーンやセリフが多いことも、歴史ドラマが人気のある理由かもしれない。 (2011年6月 中島 恵)
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