ジャーナリスト Kei Nakajima

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特筆記事

その4
特筆記事

SARS真っ只中の香港を歩いて

 2003年春、中国や香港、台湾をSARS(新型肺炎 )の嵐が襲った。SARSは「スーパー・スプレッダー」と呼ばれる感染者から飛行機や列車をつたってまたたく間に全世界へと広がった。そんなさなか、取材のため4月末に香港を訪れて驚いた。「なんで! みんなマスクをしてないじゃないの……」。空港に降り立った時点でマスクをしていたのはざっと見ても約半数。街角では約4割の人しかマスクをしていないことに本当に驚いた。地元の人は「3月からずっとマスクをしていたよ。もう辛い。飽きた。マスクをしていれば安全とも言えないでしょう。だからやめたんだ」という答えが返ってきた。 

 日本のテレビを見ると、マスクをしている市民の映像しか目に飛び込んでこない。日本の報道と現実とのギャップに改めて驚き、必要以上にSARSを恐がり、風評被害を恐れている日本の状況、日本人の感覚に大きな疑問を感じた。5月に入ると香港では繁華街に人も繰り出すようになり、少しづつではあるが、明るさを取り戻してきていた。その後、7月にも香港を訪れるチャンスがあったが、街はどこもかしこもSARS前のまんま。一緒に香港を訪れた新聞記者たちは「たぶん、たいしたことなかったんですね」という人もいれば「実は今回来るのが恐かったんですよ」という人もいる。私自身はこのとき改めてSARS下の香港を自分の目で見ておいて良かった、と思った。あの状況を知らなければ、比較することなどできないではないか、と感じた。

 日本のテレビ報道だけでは真実は見えてこない。もちろん、香港に行った私も何が「真実」だったかなど、わからない。でも、同じ日に戻ってもう一度、あの日の香港を見ることは絶対にできないのだから、私は貴重な体験をした、と思っている。

 SARSによってホテル業界や観光業界、航空業界は大変な打撃を被り、香港経済は以前にも増して悪化した。香港市民は政府への強い不満を抱いている。しかし、一般市民の間では衛生観念が急速にアップし、常に手洗い、消毒、家庭での掃除を実行するようになったのも事実。衛生観念の向上や香港市民が一致団結し、「愛香港心」を強めたことだけは、SARSという不幸がもたらした中で唯一の「幸い」といえるのではないだろうか。

(文・写真 中島恵)


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