ジャーナリスト Kei Nakajima

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2004年1月25日号
『Yomiuri Weekly』(読売新聞社発行)p.90〜91

求む!即戦力 大学に実践的「中国」カリキュラム続々
2004年1月25日号 Yomiuri Weekly

特筆記事

  躍進する中国に刺激されて、日本の大学も動き出した。「中国」や「アジア」をキーワードとしたカリキュラムが続々と登場しているのだ。新たな巨大市場で活躍できる人材を求める企業と、少子時代の生き残りに懸命の大学の思惑が一致したかたち。就職氷河期のただ中にあって、その就職内定率の高さは驚異的だ。学生よ、アジアを目指せー。   ジャーナリスト 中島恵

 「これまでにない画期的なプログラムですよ。中国留学中に企業でインターンシップを体験すれば、社会に出たときをイメージしやすいですから」

 亜細亜大学が今年4月に開設する「アジア夢カレッジーキャリア開発中国プログラムー」について、中国留学経験を持つ、ある企業の採用担当者は、こう評価する。この新しいカリキュラムが今、中国で働く人材の不足に悩む企業から熱い視線を浴びている。「アジア夢カレッジ」は、学部の垣根を越えて、書類や面接によって新入生の中から40人を選抜するという、全く新しい教育モデル。1年次で中国語やアジアについての基礎を学び、2年次に中国・大連外国語学院に留学する。留学中には、日系の協賛企業でインターンシップとして1ヵ月間、職場体験。つまり、学生は実際に中国の会社で働く。そして、帰国後の3、4年次にそのフォローアップを行うーという内容だ。インターンシップを中国で組織的に行うのは初めての試みで、学生選抜の面接にも企業の担当者が立ち会い、4年間を通して学生の相談にも乗る。これも異例のことだという。文系としては、過去に例のない「産学連携」のプログラムだ。

 また、愛知大学が1997年に創設した現代中国学部のカリキュラムも今、企業から注目されている。この大学は、戦前、上海に創立された東亜同文書院を前身としていて、中国教育ではもともと定評がある。昨年からは通訳・翻訳家を目指す学生のために「中国語インテンシブ」をスタートさせた。2003年の卒業生の内定率は男子が実に100%、女子98%と全国平均を大きく上回っている。同大でも今 後、インターンシップを実施する計画があるという。このほかにも、大学名や学部名に「アジア」を冠した「立命舘アジア太平洋大学」や「国士館大学21世紀アジア学部」など、アジアを売りにした新しいプログラムが続々登場している。

 今や、中国に進出した日系企業は空前の3000社に上るという時代。大メーカーばかりでなく、下請けの中小企業も出ざるを得ないといった状況だ。営業マンや生産管理担当者など、人手はいくらあっても足りない。社員を中国語学校に通わせたり、中国への留学生を現地採用したりして、何とかやりくりしているのが実情なのだ。前述した亜細亜大、愛知大に共通しているのは、いわゆる「中国語学科」と違って、ビジネス社会で「使える」人材の育成を強く意識している点だ。両校とも在学中にビジネスマンと接触する機会を設け、中国で働く人々を学生たちに“見せる”工夫をしている。例えば、亜細亜大の「アジア夢カレッジ」には、協賛企業として伊藤忠商事、東芝などが名を連ねている。企業の内部に身を置いてみることで、自分の力を推し量ることができる。

 亜細亜大の鯉渕信一氏は、企業との接点をつくることについて、「今の学生は何をするにもリアリティーが持てないでいます。教育現場に、もっと企業の声を生かすことが必要。学生に具体的な自分の将来像を描かせ、夢のタネを植え付けたい」。生まれたときからゲームやパソコンがあり、バーチャルな世界で育った大学生たち。満ち足りた生活の中で、「仕事への現実的な夢を持て」というのは、簡単なようで難しい。2年生で留学させるのも、学生に早く刺激を与え、能動的に就職活動に臨ませる「仕掛けづくり」のためだという。

 これまでも、アジアブームに乗って、アジアや中国への留学を目玉に据えた大学はあった。だが、企業の採用担当者は、「中国語ができるだけでは日中の懸け橋にはなれない。留学しても、現地では日本人同士、固まっているだけですから。当たり前ですが、自分の足で中国の町を歩き、中国人とコミュニケーションをとる経験がとても重要」と話す。そのために「留学中は中国人と同室で生活させたり、中国人がいる企業で働かせる大学の試みには価値がある」(担当者)。

 (中略)どんな業種のビジネスであれ、中国を抜きには仕事ができなくなってきている。企業にとっては、こうした人材の育成は、もはや大学まかせにしていられない、ということだろう。かたや大学側も、02年度の入試で、実に3割の私立大学が定員割れし、私大の「倒産」も現実のものとなってきている。今後、さらに少子化が進み、経営難に苦しむ大学が続出するのは目に見えているだけに、いかに特色を打ち出し、企業や学生にアピールしていけるかが死活問題だ。そんな大学にとって、「アジア」や「中国」は、ますます避けられないキーワードになるに違いない。


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