この本の存在を知ったのは4〜5年前。取材で知り合った方が80年代に香港に駐在していたと聞いて意気投合、雑談していたときに、この本の話題を持ち出したのだった。1960年代、香港は深刻な水不足に悩まされ、4日に1回4時間の給水しかないという話は、当時から香港に住んでいた大学の先輩に聞いて知っていた。だが、水不足解消に日本企業が貢献していたとはまったく知らなかった。戦後、日本の建設業者にとって初の海外工事で実話だという。その方の話を聞いているだけでも感動し、古本を取り寄せて読んでみた。
もともと本書は1966年に毎日新聞に連載されたノンフィクション小説で、連載終了後に講談社で出版されたのち、73年に潮出版社から出版。その後絶版となったあと、読者の強い要望により1991年に日本放送出版協会から3度目の出版に到ったものである。NHKでドラマ化されたこともあるというので、記憶にある方も多いだろう。作家は「黒部の太陽」の筆者でもある。タイトルからもわかる通り、香港の水不足を解消するため、上水道工事を行った小松製作所、西松建設、熊谷組などの日本企業の駐在員たちの物語である。ノンフィクションであるが、小説仕立てにしてあり、現地の香港人とのつながり、香港人女性との恋愛、地元香港の社会のことも詳細に書かれている。
胸を打つシーンはいくつもある。偶然知り合った女性、何麗芬が日本との戦争で祖父母や父を亡くした話をしたシーン。麗芬が家族のため、ダンサーとしてシンガポールに行くシーン。日本人、藤沢がダムに飲み込まれて殉職するシーン。そして最後に藤沢のお墓参りのため、麗芬が日本を訪れ、藤沢のお墓に「香港の水」をかけるシーンだ。朝日新聞の記事で「香港に関係する日本人の必読の書」と書かれていたそうだが、香港に限らず、海外に駐在するすべての日本人に読んでほしいすばらしい本だと思う。海外に暮らし、その国の人々とどう向き合っていくか。生き方の姿勢も教えてくれる書として、何度も読み返したくなる本である。(09年4月16日) |